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富山地方裁判所 事件番号不詳 判決

右の者等に対する頭書各被告事件に付当裁判所は検事近藤忠雄関與の上併合審理を遂げ左の如く判決する。

主文

被告人武田儀八郞を懲役一年に、

被告人安田勝二を懲役八ケ月に、

被告人関野達夫を懲役一年に、

被告人地倶初二郞を罰金十万円に、

被告人新興工業株式会社を法人税法違反営業税法違反に付罰金二百万円に隠匿物資等緊急措置令違反指定生産資材在庫調整規則違反に付罰金一万円に各処する。

被告人地倶初二郞に於て右罰金が完納出来ぬ場合は金二百円を一日の割合に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人武田儀八郞、同安田勝二に対し三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用中鑑定人松井三良に支給した分は被告人地倶初二郞同新興工業株式会社の連帶負担、爾余は被告人武田儀八郞の負担とする。

被告人武田儀八郞、同安田勝二の纖維屑配給統制規則違反に付同被告人等を免訴する。

被告人武田儀八郞の所得税法違反の点は無罪。

理由

第一  被告人武田儀八郞は昭和十七年九月より昭和二十二年四月同被告人が高岡市長に就任する迄捺染加工業を営む被告人新興工業株式会社を主宰して来たが右会社の社長在任中である昭和二十年八月下旬頃当時右会社が舞鶴海軍軍需部から染色委託された麻帆布約六百反を預り業務上保管中擅に之を被告人武田儀八郞の肩書居宅に於て高岡市御旅屋町所在合同帆布有限会社々長平野基一に売却して以て之を横領し

第二  被告人安田勝二は右新興工業株式会社の常務取締役であるが右会社の支配人在任中である昭和二十一年二月頃右会社の業務に関し相被告人関野達夫等と共謀の上隠匿物資等緊急措置令第一條の規定に依る調査物資に付ての報告書を提出するに際して其の報告書中に同令施行の日である昭和二十一年二月十七日に右会社が所有する綿織物金巾約四千八十碼を其の所有者は新染布株式会社であり新興工業株式会社は單に之を保管して居るに過ぎない旨の虚僞の記載を為して之を提出し以て虚僞の報告書を提出し

第三  被告人関野達夫は昭和二十一年十二月新興工業株式会社の支配人に就任し同会社の資材の入手、記帳等の事務を主宰して居るものであるが右会社の業務に関し

(一)  昭和二十一年二月頃隠匿物資等緊急措置令第一條の規定に依る調査物資に付ての報告書を提出するに際し同報告書中に綿織物金巾四千八十碼に付ては被告人安田勝二と共謀の上、前掲第二記載の如く虚僞の記載を為して之を提出し、又被告人單独にて同令施行の前記期日に右会社に於て海軍服千七百点を所有して居るのに拘らず其の旨の報告書を提出せず以て虚僞の報告書を提出し及び報告書の提出を怠り

(二)  法定の除外事由がないのに拘らず昭和二十二年二月二十日頃指定生産資材在庫調整規則第三條の規定による在庫数量の報告を為すに際り同條指定の日である昭和二十二年一月二十五日に右会社が所有する合成染料は約六千四百十七瓩九百九十瓦なるに拘らず之を二千八百十八瓩しか所有して居らぬ旨虚僞の報告を為し

第四  被告人新興工業株式会社は高岡市内免二百五十一番地に於て捺染加工業を営むもので被告人地倶初二郞は昭和二十年十月より右会社の会計課長をして居る者被告人安田勝二同関野達夫は、前掲第二第三記載の如く同会社の支配人たりし者、又は現に支配人たる者であるが其の各地位に就任中孰れも右会社の業務に関し

(一)  被告人地倶初二郞は法人税等を逋脱する目的を以て昭和二十二年十月二十七日同会社の昭和二十年十二月一日より昭和二十一年十一月三十日迄の間に於ける加工料收入は三百九十五万五千四百十二円九十七銭なるに拘らず同会社の右期間に於ける加工料收入は二百四十四万七千四百二十六円九十八銭なる旨及び昭和二十一年十二月一日より昭和二十二年五月三十一日迄の間に於ける加工料收入は二百十五万六千四百五十七円四十二銭なるに拘らず百九十五万九千三百三円五十七銭なる旨夫々虚僞の貸借対照表、損益計算書を作成して之を高岡税務署宛提出し以て同署係員を欺罔し因て被告人会社の為に合計約百三十九万三百八十八円五十五銭の法人税及営業税の逋脱を計り、

(二)  被告人安田勝二、同関野達夫は前掲第二第三ノ(一)記載の如く隠匿物資等緊急措置令違反の行為を為し(但し海軍服千七百点の部分は之を除く)

(三)  被告人関野達夫は前掲第三の(二)記載の如く指定生産資材在庫調整規則違反の行為を為し

第五  被告人地倶初二郞は前掲第四記載の如く新興工業株式会社の会計課長として同会社の納税業務を担当して居る者であるが同会社の業務に関し昭和二十二年十月二十七日右会社の昭和二十一年十二月一日より昭和二十二年五月三十一日迄の間に於ける加工料收入は二百十五万六千四百五十七円四十二銭なるに拘らず百九十九万九千三百三円五十七銭なる旨、高岡税務署宛虚僞の貸借対照表、損益計算書を提出し以て同署係員を欺罔し因つて同会社の為に八万四千六百九十八円六十銭の法人税の逋脱を為し

たものである。

証拠を按ずると

判示第一の事実は

一、当審証人平野基一の当公廷に於ける昭和二十年八月下旬頃武田儀八郞から電話で呼ばれ同人宅を訪れたが、其の席には、武田儀八郞の外に、井本和平、藤岡伍作が同席して居たと思う。其の際武田儀八郞から「進駐軍が来るので、軍から預つた帆布を処分して民需用に廻そうと思うが君の方で使えるか」と申されたので私は見本を見なければ判らないと答えると、見本を持つて来た様に思います。其の結果使えると云うので私の方でそれを買受けました。数量は約六百反で値段は公定価格とし、之は私の方で調べて武田に通知することに致しました。右の様な話があつた二、三日後武田の方から、麻帆布を運んで貰いましたが、数量は約四百反位であつた様に思う旨の陳述

一、当審証人井本和平の当公廷に於ける自分は、昭和十七年武田儀八郞と共に大洋航空工業株式会社を設立し、共に取締役をして居りましたが終戰の年の日時は判然と憶えて居りませんが某日大洋航空会社の事で武田儀八郞宅を訪れたことがあります。ところが其の際丁度藤岡伍作も居合わせたのでありますが武田儀八郞から「舞鶴軍需部の方から麻帆布が来て居るのであるが、染賃を請求に行つたが、早急に支拂つてくれそうにもないから、然るべく処分しようと思う」と云う様な話しがありました処藤岡から「帆布を処分してもよいのだつたら、平野は本職だし任せたらどうか」と云われ、私も「平野君も喜ぶだろう」と申しました。それで平野を呼び同人と武田との間に話がり平野が麻帆布を買取ることになつたのであります。数量は六百反あると云うことであつたと思います。値段は丸公でと云うことは聞きましたが、金額は知りません。尚其の間藤岡から「軽卒な真似をやつてはいけない。」との注意がありましたが武田は「問題になつても丸公で金を積んで置けばよかろう」。という話しであつた旨の供述

一、当審証人藤田伍作の当公廷に於ける私は武田儀八郞と共に大洋航空工業株式会社をやつて居たので右会社の事に就て終戰の年の八月二十日過頃武田儀八郞をその居宅に訪れたことがあります。其の際武田から「舞鶴の方から麻帆布を預つて居るが、其の処置について人をやつたところが急速に民需用につぶして使うとの指示があつたから之を処分したい」という話しが出たので私は「平野なら專門家だからよくはないか」と申した様に思います。それで平野を呼び生地の点価格数量等の話しもあり価格は丸公を調べてくれ万一返還することになれば丸公で淸算すればよいと言うことになつた様に思います。私は其の際武田に「軽卒なことを愼しむべきだ」と注意した処、武田が「代金を丸公で受取つて別途に保管して置けばよい」と言われた様に思う旨の供述

一、当審証人国武至生の当公廷に於ける私は昭和十九年三月より昭和二十一年六月頃迄舞鶴海軍々需部会計課に居りました。日時の記憶はありませんが、高岡市の新興工業株式会社へ来た事があります。それは同会社には軍に返還されないものが相当あり其の中民需転換の心算で県に出したもの自分の方が使い込んだものもあると言うので残つて居るものを返還させる為に来た旨の供述

一、被告人安田勝二の当公廷に於ける終戰前舞鶴海軍軍需部から麻帆布約八百反の送付を受け中二百反位を染色して返送したので、五、六百反位残つて居たと思う旨の供述

一、記録編綴の新興工業株式会社の登記簿讓本の記載を綜合して之を認め、

判示第二の事実は、

一、被告人安田勝二同関野達夫の当公廷に於ける各判示同旨の供述

一、名古屋商工局北陸出張所より富山県防犯課長宛新興工業株式会社に就いての調査依頼に関する回答書添附の新興工業株式会社提出の申告書中に判示の如き記載があるのとを綜合して之を認め、

判示第三の事実は、

一、被告人安田勝二同関野達夫の当公廷に於ける各判示同旨の供述

一、右回答書添附申告書の記載

を綜合して之を認め、

判示第四ノ(一)の事実は、

一、被告人地倶初二郞の当公廷に於ける昭和二十年十二月一日より昭和二十一年十一月三十日迄の加工料收入の点に付ての判示同旨の供述、昭和二十一年十二月一日より昭和二十二年五月三十一日迄の間に於ける加工料收入は判示の如き金額であつたが税務署宛には判示の如き金額を申告した旨の供述

一、押收に係る証第十八号証中の貸借対照表損益計算書の記載を綜合して之を認め、

判示第四の(二)(三)の事実は、前掲第二第三ノ(一)(二)挙示の証拠に依り之を認め判示第五の事実は前掲第四ノ(一)挙示の証拠中判示事実に該当する部分に依り之を認める。

法律に照らすと

被告人武田儀八郞の判示行為は刑法第二百五十三條に該当するので所定刑期範囲内に於て、同被告人を懲役一年に被告人安田勝二の判示所為は隠匿物資等緊急措置令第一條第十條刑法第六十條に該当するので所定刑中懲役刑を選擇して其の刑期範囲内に於て同被告人を懲役八月に被告人関野達夫の判示第三ノ(一)の所為は隠匿物資等緊急措置令第一條第十條刑法第六十條に該当するもので所定刑中懲役刑を選択し判示第三ノ(二)の所為は指定生産資材在庫調整規則第一條第三條臨時物資需給調整法第三條第五條第一号同法附則第二項但書過剩物資等在庫活用規則附則第三項に該当するところ右臨時物資需給調整法は昭和二十二年法律第二十五号に依り変更せられ新に第七條が附加せられたので刑法第六條の趣旨に則り同法第十條を適用し新旧両法を比照し軽い行為時法に従い所定刑中懲役刑を選択し以上は刑法第四十五條前段の併合罪なので、同法第四十七條本文及び但書第十條を適用して法定の加重を為した刑期範囲内に於て同被告人を懲役一年に被告人新興工業株式会社の判示第四ノ(一)の事実中自昭和二十年十二月一日至昭和二十一年十一月三十日事業年度の分の租税逋脱の所為中法人税法違反の点は昭和十五年法律第二十五号法人税法(以下旧法人税法と略称する)第二十九條明治三十三年法律第五十二号第一條昭和二十二年法律第二十八号法人税法(以下新法人税法と略称する)附則第五條に該当し営業税法違反の点は営業税法第三十三條昭和二十二年法律第二十九号特別法人税法の一部を改正する法律附則第二十條昭和二十三年法律第百七号所得税法の一部を改正する等の法律第六十條明治二十三年法律第五十号第一條に該当し昭和二十一年十二月一日より昭和二十二年五月三十一日迄の間に於ける租税逋脱の所為は新法人税法第五十一條第四十八條同法附則第三條明治三十三年法律第五十二号第一條に該当し以上は一個の行為にして数個の罪名に触れる場合に該るので刑法第五十四條第一項前段第十條を適用して重い旧法人税法違反の刑に従い判示第四ノ(二)の所為は被告人安田勝二に適用した法條の外隠匿物資等緊急措置令第十四條を適用し判示第四ノ(三)の所為については被告人関野達夫の判示第三ノ(二)に適用した法條の外臨時物資需給調整法第六條を適用し以上は刑法第四十五條前段の併合罪に該当するところ旧法人税法第三十二條に於て旧法人税法第二十九條違反の罪に就いては刑法第四十八條第二項の適用を排除して居るので判示第四ノ(一)の点に就いては旧法人税法第二十九條所定の逋脱したる税金の三倍たる金三百八十万六千九百七十一円〇五銭の罰金額範囲内に於て罰金二百万円に判示第四ノ(二)と(三)の所為に就いては刑法第四十八條第二項を適用し、隠匿物資等緊急措置令第十條及び臨時物資需給調整法第五條所定の罰金の合計額範囲内に於て罰金一万円に被告人地倶初二郞の判示所為は新法人税法第四十八條同法附則第三條に該当するので所定刑中罰金刑を選択し同被告人が逋脱した税金の三倍なる金二十五万四千九十五円八十銭の罰金額範囲内に於て同被告人を罰金十万円に夫々処すべく被告人地倶初二郞に於て右罰金が完納出来ぬ場合は刑法第十八條を適用して金二百円を一日の割合に換算した期間同被告人を労役場に留置すべく尚被告人武田儀八郞同安田勝二に付ては、犯罪の情状刑の執行を猶余するを相当と認めるので同法第二十五條を適用して三年間右各刑の執行を猶余すべく訴訟費用の負担に付ては刑事訴訟法第二百三十七條(連帶負担に付同法第二百三十八條適用)を適用して主文第三項掲記の如く其の負担を命ずべきものとする。

尚被告人武田儀八郞の弁護人島田武夫は同被告人の麻帆布処分行為は緊急避難行為である旨主張するけれども同被告人の麻帆布処分行為が刑法第三十七條所定の緊急避難行為に該当するとは認め難いので右主張は之を採用しない。

次に本件公訴事実中、

第一  被告人武田儀八郞と同安田勝二が共謀の上法定の除外理由がないのに拘らず昭和二十一年四月頃から七日頃迄の間に数回に亘つて新興工業株式会社の捺染加工から生じた人絹端切(平生地及避生地)約千八百碼を右会社等で新興商会小倉鼎に対し約二万四千円にて売渡し

第二  被告人地倶初二郞は昭和二十年十月被告人新興工業株式会社の会計課長に就任し同会社並びに元同会社社長であつた相被告人武田儀八郞の納税業務を担当して居たが、右相被告人等の為に犯意継続して昭和二十一年二月上旬頃から昭和二十二年十月二十八日頃迄の間に別表記載の如く右相被告人等が加工料個人所得の所得額があるに拘らず恰も存在しないかの様な虚僞の貸借対照表、損益計算書、個人所得申告書等を作成して其の頃之を高岡税務署に提出し且会社帳簿にも虚僞の記載をして同署係員を欺罔し以て右相被告人等の為に別表記載の如き法人税等の逋脱を為し

た旨の事実に付審究するに、

先ず第一の点に付て按ずると昭和二十一年十一月三日勅令第五百十一号大赦令第一條第四十九号に依り昭和二十一年十一月三日以前に犯した昭和十年法律第九十二号第五條並びに之等に関する第七條の罪に付ては之を赦免する旨規定されて居るので昭和二十一年四月より同年七月迄の事犯たる右第一の事実に付ては右大赦令の適用があるので、刑事訴訟法第三百六十三條に則り免訴の言渡を為すべきであり更に又右端切が纖維屑に非ずして纖維製品配給消費統制規則に所謂纖維製品なりとするも同規則違反の所為に付ても亦前記大赦令第一條第四十九号が適用せられる結果纖維屑配給統制規則違反の場合と同様免訴の言渡を為すべきである。

仍て右第一の所為に付ては被告人武田儀八郞、同安田勝二に対し刑事訴訟法第三百六十三條第三号を適用して免訴の言渡しを為すべきものとする。

次に第二の税法違反の所為に付按ずると別表中第一乃至第六の事実に就ては行為者たる地倶初二郞に付税法違反の犯意を認め難いので、被告人武田儀八郞に付ては其の所得税法違反に付刑事訴訟法第三百六十二條に則り無罪の言渡を為すべく又被告人新興工業株式会社に付ては右は判示第四ノ(一)と連続若しくは牽連罪の関係に於て起訴せられたものと認めるので特に主文に於て無罪の言渡をなさない。更に別表中第七、第八の事実は判示第四ノ(一)認定の範囲に於て地倶初二郞の税金逋脱の意思は之を認める事が出来るが抑々税法違反には所謂両罰規定の設けられなかつた以前には特別の規定のない限り專ら業務主を処罰の対象とし事実行為者の責任は之を問はぬものと解さねばならぬ。

この事は明治三十三年法律第五十二号の規定に徴するも明かである蓋し同法は其の第一條に於て法人の代表者又は雇人其の他の従業者が法人の業務に関し、税法に違反した時は、各法規に規定した罰則を法人に適用する旨規定し專ら営業主体を処罰すべきことを定め事実行為者たる代表者等の責任を問はないものである然らば別表中第七第八の所為に付被告人地倶初二郞には刑事上の責任がないものと謂わなければならない。結局同被告人に付ては別表中第一乃至第六の事実に付ては犯罪の証明なく同表中第七第八の所為は罪とならないが以上は孰れも判示有罪の部分の一罪の関係に於て起訴されたものと認めるので特に主文に於て無罪の言渡しを為さない。

仍て主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 水上尚信 裁判官 淸松盛隆 裁判官 小川潤)

<省略>

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